忘己利他(もうこりた)
自利利他(じりりた)

どちらも他者の幸福を中心に据える言葉で、英語で私が思い浮かぶのが「Pay it Forward」。自己の欲が強い私が戒めとしてよく思い浮かべる言葉です。


ひとつの歯車が狂うと人生は大きく変わっていく。変わってしまった先でも人生は続いていくわけで、受け入れざるを得ないことも確か。
ただ、皆が皆、それほど強く生きていけるわけもなく、挫折していく人も。

主人公•田村健一(通称 タムケン)は変わってしまった境遇を受け入れ、誘拐を生業として生きています。しかも、その業界ではかなりのトップランクとして。
物語は、そんなタムケンに新米の根本翼が見習いとしてペアを組むところから始まります。

誘拐というワードから連想すると、南米やらの異国のいかついイメージで、ですが、国内でも連れ去りというワードを拾ってみるといくつか報道がヒットします。
タムケンの仕事も連れ去りというワードに近いイメージでして、依頼のあった人物をとある場所まで運ぶという仕事です。
ということですので、その人物がそれたで何をしてきて、誘拐されるに至ったか、運んだ後にどうなるかは我関せずというスタンスでこれまで仕事こなして来たのですが、見習いとペアを組んだことによりそのスタンスが崩れることになります。
登場人物の軽妙な語り口と散りばめられた布石はあの伊坂幸太郎氏を彷彿とさせるものがあり、没入度合いも心地よいです。
今回の物語では、エピソードが7つあり、その中で私の好みは「エチケット4 贔屓の力士を応援する」でして、タムケンの人となりが如実に出ています。
タムケンと誘拐される側の人たち。本来的にお互いに相容れないはずなのですが、見習いというほんの小さな歯車が入ることで全く違う未来が生み出されます。


ほんの小さな働きかけが、ある人の未来に大きな変化を及ぼす。他者に尽くすのも悪くないと思わせる現代の道徳の教科書だと私は思いました。


ともかくオススメです

最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。

横関大(2020)『誘拐屋のエチケット』.講談社

(参考記事)

https://takayamaclub.matrix.jp/columns/reading-impressions-yokozekidai-4/
https://takayamaclub.matrix.jp/columns/reading-impressions-yokozekidai-3/
https://takayamaclub.matrix.jp/columns/reading-impressions-yokozekidai-2/
https://takayamaclub.matrix.jp/columns/reading-impressions-yokozekidai/

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