本日の物語は柳広司氏の『アンブレイカブル』。柳広司氏の物語は以前、このブログで取り上げた『風神雷神』を皮切りに結構、読んでいるのですが、本作はとても異質でした。

 細かなことですが、今までの物語ではなかった太字の箇所が幾つかあったり、登場人物が実在の人物であったり。私が未だ読んでいない物語で同様の手法が使われていたら申し訳ありません。私の読み込みが足らないだけです。

 短編が4作入っており、それぞれ

 雲雀

 叛徒

 虐殺

 矜持

という題目がつけられています。

 それぞれに意味があり、物語を一言で著すとという感じではあるのですが、私にとっては没入できる物語ではありませんでした。勿論、だからと言って物語の質が低いというわけではなく、かなり高いと感じました。そこは好みだと思うのですが、以前にも触れたように私はあたかもその物語の中に居るが如き没入感がある物語が好きです。

 この『アンブレイカブル』の4つの物語に共通する題材は「治安維持法」です。1925年に制定された法律で、当初は共産主義勢力の弾圧のための法律でしたがその後、体制維持のために拡大解釈され、途方もない人数が逮捕されています。

 治安維持法(NHK for School)についてはこちら

 その過程もこの4つの物語を読み進めることで組織という凝集性・同調性の怖さを思い知ることになります。第二次世界大戦末期の日本という国の怖さを思い知らされます。不思議の柳広司氏の物語では明治であったり、大正であったり、昭和初期であったりと現代でも我々の祖父もしくは曽祖父の生きていた時代の生々しい匂いに触れることが出来ます。危うさであったり、狡さであったり、普段であれば隠しておいて慎ましやかな日本の情景を抱きがちな郷愁が吹き飛ぶような生々しさがあります。それは、ジョーカーゲームのシリーズにも出てくるのですが、そちらの方はどこか爽快というか痛快な感触が残っているのですが、この『アンブレイカブル』においては、最初の『雲雀』を除いて、心にずーんとくる物語です。翻って言えば、誰にでも陥る危うさを眼前に突き付けられている感覚でしょうか。

 と言いつつ、次回作も楽しみにしている私。やはり、柳広司氏の物語が好きなんです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

柳広司(2021)『アンブレイカブル』.KADOKAWA.

参考


1件のコメント

1分間読書感想文:柳広司氏『シートン(探偵)動物記』 - 大学よもやま話 · 2021-11-24 23:21

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