今回の物語は、柏木伸介氏の『スパイに死を 県警外事課クルス機関』です。シリーズ三作目となる今回は、全9章からなる物語で、序章がその3まであるのは異例ではないでしょうか。そんなに小説を読んできませんでしたのでセオリーを知りませんが、私は見かけたことがありません。このエピローグが3つに分かれていることがこの後に続く物語の複雑さを物語っているとも言えます。

 今回の物語では、第2作に登場した人物が引き続き登場し、登場人物の骨格としては十分に固まっていますので、既に次回作も期待したいところです。それくらい各キャラクターが立ってきていますので、前2作を読んでいる方は馴染みがあるでしょうし、本作から読んだ方もしっかりとイメージできると思います。

 それにしても、今作も複雑なストーリーとなっているにも関わらず、スピード感をもって展開していくのは、緻密なプロットがあるのと同時に私が着目したのが季節です。クルス機関シリーズの特徴と言えると思いますが、目次に日付が打たれており、各節には時刻が表示されています。当然ながら時系列で進んでいますので、テキストでありがなら、「24」シリーズのような臨場感が生み出されているのではないかと思います。しかも今作では時期が盛夏ですので、猛烈な暑さの中、例の如く、単独捜査を行う主人公の来栖。(ちなみにクルス機関と銘打たれていますが来栖一人に対して名づけられた通称ですので、念のため。)読みながらこちらも気が急くわけです。対して、各登場人物の時間軸の差にも興味が惹かれました。ネタバレが嫌いですので、書きませんがある人は超然とした時間の中で動いて指示をしていますし、完全にマイペースの人もいます。スパイ(諜報員)に関する物語ですので、各国のスパイが出てきますが、それぞれのお国柄もあり、そこを上手く理解した上でけしかける来栖の腕も見どころです。現実に起こりそうにない状況でも物語で緻密に積み上げらえれて一緒に進んでいくと、どうしてもあり得る状況と錯覚してしまいます。ですので、今回の物語については没入感がありました。今回は少し切ない場面もあり、苦しく感じることもあり、それが物語に現実性を持たせているのかもしれません。

 そうそう、今まで来栖本人に関する情報は本当に小出しでしかありませんでしたが、今作では、「おっ!」という情報も出されています。まだまだ、明らかになっていないこともありそうですので、おそらく次回作もあることでしょう。次回作も期待したいところです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

柏木伸介(2020)『スパイに死を 県警外事課クルス機関』.宝島社.

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読書感想文:柏木伸介氏『スパイに死を 県警外事課クルス機関』をビジネスに置き換えてみると - 大学よもやま話 · 2021-09-01 04:18

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