早速読みました。柏木伸介氏の『起爆都市 県警外事課クルス機関』。今作も前作に負けずスケールの大きな話でリアリティ抜群です。本当にあってもおかしくない。それくらい、日本に限らず、テロの危機はあると思い知らされました。今作は前作と異なり、日本国内の独特な歴史から連綿と続く犯罪の連鎖から派生した筋と主人公の来栖惟臣の個人的な事業とが微妙に絡み合い、そして今回もまた、女性の登場人物が絶妙に絡んできます。
でも、読了後にやはり何か腑に落ちない感じが残りました。何のだろうと振り返ってみますと「死」に対する捉え方の違いではないかと思い至りました。前作も今作もあっさりとした「死」が幾度も出てきます。本当に個人的な思いでしかないので、気にされない人は気にされないでしょうし、そもそもギリギリの場面では意外とこうもあっさりと「死」が登場してくるのかもしれません。何せ拳銃ですからね。一発と言えば一発で終わります。
とは言いながら、死に至るまでの展開であったり、その後のその登場人物の扱いがどうも私的にはしっくりいっていません。殊更、ウェットの方が好きということでもないのですが、主人公と敵対する関係にせよ、支援する味方にせよ、私の場合、そのキャラクターに場面場面で没入しているのかもしれません。だからこその「死」への必然性であったり、意外性であったりを求めているように思います。と言いながら、三作目も出ているようですので読む気は満々なのですが。
さて、2作目を読んで気づいたことを幾つか。これは物語の上だけでなく、現実社会の人間関係でも言えることなのだと思うのですが、100%信頼できる関係性というのはないのではないかと。親族であっても。どこかに遊びというか、自分が期待した通りや想定していた通りに行かないことを前提に付き合っていくしかないのではないかと。今作では、主人公の来栖とは必ずしも協力的ではないと思われた人物(前作でこっぴどくやられたのもあるので)も実は全体像を俯瞰した上で、来栖の支援を行っていたり、自分が操作していると思われた人物の方が操っていたとか。その辺りの誰が味方で誰が裏切り者なのかが、本当に一枚ページをめくるまで分からないという展開が幾度も出てきます。
スタンスは常にニュートラルにとっておき、どこから攻められてもよいに準備は万全にしておく。ビジネスの上でも重要なことではないでしょうか。段取り8割と言う方もいますしね。そう。ビジネス書として捉えることも十分できます。来栖が所属する組織は神奈川県警外事課というガチガチの官僚組織(正確に言うと、警察庁と県警という二重構造にはなっているみたいですが)ですので、企業以上に融通が利かない面も多々あります。それを単独で考え、行動し、時にはサポートを受けつつ、起きている事象を俯瞰で捉え、モノの本筋を読み、落としどころに持っていく。まさにビジネスそのものですよね。
そう考えると柳広司氏の物語も伊兼源太郎氏の物語も自分が所属する組織と対比しながら読むのもひとつの読み方かもしれません。意外と現状でぶつかっている課題の糸口が見つかるかもしれません。どの物語も“犯罪”という究極の課題に取り組んでいますから。
三作目も楽しみすが、それはまた別の機会に。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
柏木伸介(2018)『起爆都市 県警外事課クルス機関』.宝島社.
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