まずは、未だ警視庁監察ファイルシリーズを読んだことのない方に前提のお話をば。書籍の最初に登場人物相関図がありますので、それを見ていただければ、明らかなのですが、警視庁には捜査機能としての部署(刑事部・生活安全部・公安部等)の他に交通部、総務部、警務部があります。一般企業で言うところの人事部の機能は警務部の中にあり、主人公が所属しているのは警務部人事一課監察係という部署です。人事一課には通常の人事機能の他にこの監察という機能(端的に言えば警察官の監察ですね)があり、警察官の行確(行動確認の略です)が主な業務のようです。まぁ、当然ですが、警察内部からは忌み嫌われる部署のようで、監察係の名を出すと警察官には緊張が走るようです。仕事とは言え、辛い業務です。

 さて、主人公の佐良は捜査一課からある事件を機に監察係に異動となり、物語上では二年後の設定となっています。その二年間にも様々なことが佐良には降りかかり、それを時には独りで、時には周りの支援も受けながら、解決していき、その辺りはシリーズを読んでいただけるとより理解が深まると思います。というか、今回の物語は今までの伏線が回収される作りとなっていますので、いきなりこれから読み始めるのはおススメしません。

 それにしても、この没入感は、毎度のことながら素晴らしいです。たまたま私に合っていたのか、それとも大半の読者が没入感を体感できるのか。勿論、知る由もありませんが、今作も是非とも読んでいただきたいです。

 治安を維持するという大命題は国家体制の維持の根幹ですが、警察組織の及ぶ範囲をどこまで許容するのか。そんなところまで考えさせてくれます。卑近な例で言うと、監視カメラが増えると当然、犯罪率は下がると予測されます。予防効果があるので。では、その仕組みは誰がどの範囲まで使用してよいのか。ネットワークを使えば容易に捜査に流用できる反面、権力側が恣意的に使用しようと思えばこれも容易に流用出来ます。没入しながらも考えさせてくれます。

 今作では、佐良の上司の視点が追加されています。そのことも新鮮に映り、またこの物語に欠かせない視点となっています。得体の知れない人物だったのが突如として立体的に浮かび上がってくる。視点を描くだけでこんなにも印象って変わるものなんですね。

今作もおススメです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

伊兼源太郎(2021)『残響 警視庁監察ファイル』.実業之日本社

参考記事


1件のコメント

1分間読書感想文:伊兼源太郎氏『事件持ち』 - 大学よもやま話 · 2021-11-14 22:55

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