今回の書籍は『地検のS』です。

実は、この続編である『地検のS Sが泣いた日』を先に読んでしまい、「えっ! この前があるの?」と知ってから読みました。発端のストーリーを読むことに関してはあまり違和感はないのですが、というのも時々、続編から読むということをやらかすもので。ただ、この小説に関しては一つひとつの短編が独立した形となっていて、この物語の核となる「S」は登場してくるものの、それぞれの物語の視点は「s」の周辺の人達の視点で描かれています。そこが、続編から読み始めた私でも全く違和感なく読めたということだと思われます。

さて、この「S」ですが、湊川地検の総務課長である伊勢雅行を指しており、「四十代半ばにして真っ白な髪から、記者の間では『白い主』という意味で、シロヌシ」と呼ばれており、それを略して「S」とも呼ばれています。と、出だしはそうなのですが、読み進めるとこの「S」には様々な意味が込められており、物語毎の主人公からこの「S」に対する心象などから伊勢雅行なる人物像が浮かび上がってくるという形態をとっています。なので、主人公は誰なのかと言われると、毎回異なる主人公で先ほども述べたように物語の核は間違いなくこの「s」となります。

私、恥ずかしながら法学部出身でありながら、地検の仕組みは全く存じ上げなく、この伊兼氏の小説を読み、初めて構造を理解致しました。この構造も重要で、「S」は異動をすることの無い職員ですので、異動のある検事、それも「歴代次席検事の懐刀」と称されているのは、その構造を上手く利用した形になっています。最初、総務課長?と思いましたが、総務課長だからこその役割、幅の広さがモノを言う場面が多々あるわけで、それも上手に組み込まれています。

加えて、伊兼氏の各物語の題名の伏線を見事で読後の腹落ち感が半端ないです。なるほど、だからこの題名なわけかと思わずうなってしまうのと同時に、その題名を念頭に置きつつ、読み進めると伏線回収というのですかね、パズルがバチバチとはまっていく感じがあり、しばらく余韻に浸れます。

更なる魅力がある物語で、他の側面を言及したいのですが、それはまた別の機会に。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


3件のコメント

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