いやぁ、読み応えありました。今回は文庫版を読んだのですが、これが2021年の東京オリンピックに見事にマッチしていまして、これは!と思って読了した後、作者あとがきを読んで納得。文庫版にあたり改稿されていました。それにしても、つい昨年のことですから、グッと身につまされる場面が幾つもあり、かつ、毎回思うのですが丁寧なリサーチの裏付けがあるため現実感が半端ありません。数字もきっちり出てきますしね。それもこれはどれくらいなんだろうなぁと思った場面で提示されますし、前知識がない私が勝手に予測している数値より遥かに高くほぼ実感が湧かない数値なのですが置き換えもしてくださっている。至れり尽くせりです、はい。

舞台は東京オリンピック開催を目前に控えた東京。主人公はトラックドライバーの世良。不審な事件がおき、それが思ったよりも主人公に近い出来事として眼前に迫ってくる。テクノロジーの発達はもう後戻りすることはないでしょうが、やはり人間の本来的な活動に近いアナログによる活動は必要なんだろうなぁと思いました。システムの世界で言うところの冗長性にも通ずるところですかね。「冗長性」という言葉自体を最近知ったもので思わず使ってみましたが、要は車のハンドルで言うところの“遊び”の部分ですか。ガチガチのハンドルは運転しにくいでしょうしね。

この物語のメインテーマは物流です。改めて、東京に限らず、全国各地の農産物や海産物が近くのスーパーにあることの希少性を認識させられました。そして、そこまでに至る物流の精緻さも。無理をしているんでしょうね。地産地消は単なるキャッチコピーではなく、リスクヘッジの側面もあるわけでして、国内の地域間と言う狭さだけでなく、国内外の視座を持つと、ウクライナ危機で明らかになったエネルギー食糧の物流にも同様のリスクがあるわけです。

加えて作者のあとがきにもあるように裏テーマもこの物語にはありまして。こちらも大問題。しかも、いつ起こってもおかしくない。

ということで、思考や行動を正してくれつつ、壮大なエンターテインメントとなっています。もちろん、没入感も十分に体感できました。すぐにでも映画になりそう。

おススメです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

福田和代(2021)『東京ホロウアウト』.東京創元社.


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