あるけどない。ないけどある。

信頼、信用、愛情、友情などなど。目に見えているけど、ないもの。目には見えないけど、実はあるもの。この物語は、単なるミステリではないです。確かにきな臭い場面や、人が無くなる場面はありますが、終始、重苦しくも明るい、一見矛盾したバランスが成立している物語だと私は思いました。伊兼源太郎氏の物語は多少読んできましたが、そのどの物語とも異なる、いや、軽妙で絶妙な会話は引き続きありながらも、実は非常に重たい社会問題を取り扱っています。それも今までの物語でもあった、一個人では如何ともし難い、大きなハードルとなって主人公たちに立ちはだかります。

そう考えると全く別物というよりも、今まで題材としてきた重苦しいテーマを持ちつつ、どこか主人公4人の明るさに救われる物語でもあります。二転三転して申し訳ありません。感想をこうして文字で書いていると、様々な場面(この物語に依らずなんですが)が思い出され、物語事態は決して現実ではないのですが、扱っている社会問題は確かに私たちの前に存在し、現実にある。それをニュースや新聞記事で目に触れることはあっても、いや通り過ぎているだけで実感として触れているわけではないのだと、改めて認識するわけです。それがこの物語を読むことで、眼前にしかもかなりリアルなものとして実感できるわけで、ましてや没入感が半端ない伊兼源太郎氏の物語な訳ですから。これも、ないけどもあるものだなと。

はっきりいうと途中、何度も胸が苦しくなります。なぜ、このような境遇なのだろうと。でも、生きとし生ける者は多寡の差はあるにせよ、理不尽な目には会うわけでそれを如何に明るくユーモアを持って生きていくか。今回の物語は刺さりまくりの内容でした。ちなみに別におススメしていないのにハマった方が周りに何人かいらっしゃいました。

ともかく、おススメです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

伊兼源太郎(2021)『ぼくらはアン』.東京創元社

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1件のコメント

30秒間読書感想文:伊兼源太郎氏『祈りも涙も忘れていた』 - 大学よもやま話 · 2023-05-29 22:56

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