本日の物語は、福田和代氏の『火災調査官』です。

そもそも小説の読書歴が浅い私が言うのもなんですが、火災をベースとした物語を読む怖さと言うか、恐れと言うか、単なる妄想でしかないのですが、何か触れてはいけないもののように感じられ、敢えて今まで手に取ったことがなかったジャンルというか分野でありました。いや、そもそも歴が浅いので。

でも、福田氏の物語であれば、没入感に浸れるのでは、という期待の下、敢えて手に取ってみました。主人公は炎に魅せられた火災調査官で、コミュニケーションが不得手としながらもしっかりとしたエビデンスに基づいて、思考し、行動する、実は中身は男性っぽい東(あずま)。彼を軸にして、連続放火を想起させる火災が都内各所で発生し、その被害者、因縁のある登場人物、消防隊で活動する隊員、それぞれの視点で物語が描かれています。

『迎撃せよ』シリーズの時も思ったのですが、本当に緻密に資料を集めて、物語を描いているのが実感できます。自分とは縁遠い世界の状況を学習することが出来つつ、しかも物語にも没入することが出来るという一度で何回も美味しいです、ホント。

この物語、東京消防庁を題材にしていますが、実は組織論で一般化してみても十分に勉強になる内容になっているように私には思えまして、例えば、東という主人公は確かにコミュニケーションをとるのが億劫と言うか、出来れば一人でコツコツと積み上げていきたいタイプ、一方、彼の高校の先輩にあたる白木という登場人物は典型的な消防隊員というタイプで、チームの隊員を愛し、上司を愛し、東にもあれこれと世話を焼くタイプ。同僚からは煙たがられる東に対して、役職という立場もあるとはいえ、ちゃんと伝えることは伝え、サポートもキッチリする脇元課長。その他にも様々な登場人物が出てくるのですが、組織って、多様なタイプがいて、互いに足りないところを補う、あるいは各々の強みをより発揮できるからこそ、強く、しなやかさが発揮され、組織が成長していく。そのように出来ているのだと私は捉えています。

常々、人と違うことにこそ、価値があると考えていますし、だからこそ、他者の強みには理解を持ちたいと考えています。

ともあれ、おススメです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

福田和代(2018)『火災調査官』.東京創元社.

(参考記事)


1件のコメント

30秒間読書感想文:福田和代氏『梟の一族』 - 大学よもやま話 · 2022-04-13 22:30

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