「狗」には2種類の意味があり、ひとつは哺乳類の食肉目イヌ科の動物そのもの、もう一つが卑しいもの、それに紐づいたスパイ。そう言えば狗盗や走狗という言葉もあるくらいだから、あまり良い意味では使わないのだろう。

思い込みとは怖いもので、最初に手にとった時には意識していないことでも読み進めるうちになんとなく気になり、装丁を見直してみたり、最初を読み直してみたりというのは没入感があったとしてもついぞしてしまう。この物語の題名も私の勝手な憶測に過ぎないが「犬」ではなく、「狗」としたのは作者の意図的な選択なのだと思われる。だからこそ、というかその意図を意識しながら読み進めると全てのピースが繋がっていき、物語の深さを感じられるから、小説と言うのは本当に恐ろしくも面白いものだと改めて実感させてくれる。

物語は私たちが知っている性別が逆になっているホームズが事件の謎解きをするというプロットなんだが、キャラクターの設定がやけに細かくなされていてここまで説明が必要なものなのかと思いながら、読んでいたが必要だから設定されているのであって、自分の底の浅さ、キャパの狭さを自覚させられる。現代の設定でありながら、少し未来の設定でもあるような不思議な感覚を覚えるがそれも日本ではなく英国という設定も関係しているのかもしれない。オマージュにしては全く別の物語のようで、コナン・ドイルを読んだことが無い人でも十分に楽しめる物語となっている。

しかしながら、例の如く、やってしまったから仕方がないが、これは続編である。間違ってもこれから読まないように。『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』から読んだ方がよいし、読むべきである。勿論、理由があるからで、これに言及してしまうと面白くないので、是非とも最初の物語から読むことを重ねておススメする。

高殿円氏の物語はこれが最初の出逢いだが、作者紹介には幅広いジャンルの物語を書いているようで楽しみな出逢いとなった。ちなみに「知ると楽しい『シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗』ガイドその1」なんて紹介サイトもあるみたいだから、チェックしておくのも良いのでは。

おススメである。

高殿円(2020)『シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗』.早川書房.


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