本日の物語は、平野俊彦氏の『報復の密室』です。

本作は、島田荘司選として第13回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞された作品でして、読了した後の島田荘司氏の選評が秀逸でした。ミステリーを客観的に読むことを想定していない私にとって、この選評は新鮮かつ勉強になるものでした。勉強になるとは、文章を書く人、と言っても、日本語を母国語とする人であれば誰しもが気をつけておいた方が良いポイントも指摘がなされているからです。

今回の物語では、没入感が無く、何故なんだろうと腑に落ちない感じのまま読了しましたので、島田氏の選評で腑に落ちた次第です。あっ、物語が面白くないというわけでは決してありません。大切な人を亡くした人の気持ちは他人が思っている以上に当事者にとっては深く重いまま、下手をすると数年、いやもっと引きずってしまうことは容易にあり得ることです。そのことが復讐(題名の通り、この物語では報復)として、囚われてしまうこともあり得るのだと。犯罪を犯す人とそうでない人との境目はそれほど隔絶されたものではなく、なにかの拍子に越えてしまうこともあり得るのだと改めて思わされました。出来れば、この物語のように周りの人間でそういった人を支えていけることが理想なのだとも。

さて、冒頭にも触れましたが、「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」なる文学賞があることを今回初めて認識したわけですが、なぜ島田荘司氏が選考委員なのかと調べましたら、ご出身が福山市とのこと。毎年、コンスタントに応募があるようで、多い時で100作品超の応募がある年もあったようです。こういったアプローチから作品を選んでいくのも面白いかもしれませんね。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

平野俊彦(2021)『報復の密室』.講談社.


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