リストラされる側の人間がメインの登場人物にも関わらず、前向きな気持ちになるのはなぜだろうか。

渦中にいると見えないことも多いが、一旦、引いてみると自分が所属している組織や、もっと言えば、自分自身がよく見えるもの。

短編集のこの物語も様々な苦況に立たされている人が出てくるが、いずれもリアリティがあり、自分であればどのような選択をするだろうと判断を迫られる。その点ではマトモに受け止めると息苦しくなるのだが、擬似体験と捉えると、VRゴーグルを装着するゲームよりもよほど楽しめる。

どの登場人物も最後の最後はシンプルに起点へ戻っていく。

自分はなぜこの仕事をしているのか

この仕事を通して何を実現したいのか

自分の前には、無数の選択肢があったし、これからも無数に出現する。

その中から今を選択したのは紛れもなく自分自身である。

だからこそ、自分に真っ直ぐ問いかけ、真っ直ぐな答えを導き出す。

そのシンプルな方法に実感を持って辿り着かせてくれる。それが読後の前向きな気持ちに繋がるのだろう。

というわけで、今回もオススメ。

垣根涼介(2009)『借金取りの王子―君たちに明日はない2―』.新潮社.


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