吐故納新(とこのうしん)

「荘子・刻意」の「吹呴呼吸、吐故納新、熊經鳥申、爲壽而已矣」(ゆっくり大きく呼吸をし、老廃物を出し新しいものを取り入れ、熊や鳥のように大きく動くことが、長寿の秘訣である)より

オムニバスの物語で主に時代背景で緩やかにリンクしており、なんとも不思議な気分にさせられる物語集である。昭和生まれの私にとってノスタルジックな印象を受けるということは、平成生まれの人たちにとって、もはや昔話になるのかもしれない。

なんの意味もないのだが、各物語の年月日が最初に示されている(示されていない物語もある)ので、抜粋してみると主に大正時代をメインにした物語集であることが分かる。

大正五年一月七日

大正四年九月五日

大正七年四月十日

大正七年十一月五日

大正七年十一月一日

大正十四年四月十四日

昭和三十一年三月二十五日

「明治の陋習(悪い習慣・ならわし)」という言葉で表現しているように、大正時代と言うのは大きな変革から生み出された明治という時代からの脱却を図っていたことが読み取れる。主に女性の立ち位置も大きく変化していった時代なのだろう。短期間で終わったというのもあるのだろうが、単なる元号だけの収まりきらない明治時代とは異なったエネルギーをミステリーという手法を使って十二分に感じ取ることが出来る。

令和に入り、コロナ禍という未曾有の災害に見舞われた現代のおいてもそれまでの陋習が否応なく一掃された面は誰しもが実感していることと思われる。ただ、激しさと言う面においては、どうなのだろうか。いつの時代もその波に吞まれまいと抗う人たちの物語には自分の中の何かを触発されてしまう。現状に甘んじている人、意識していない人、謳歌している人、様々な人が読んでも何かを得られる物語が詰まっているのでは、というのが私の素直な印象。

おススメです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 青柳碧人(2022)『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』.KADOKAW


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