突然ですが、確信しました。伊兼源太郎氏の物語、好きです。登場人物のキャラクターの行動、思考、いずれもがスピンオフで一本の物語が出来そうなくらいしっかりと設定されていて、全く不自然でなく、毎度、その物語の中に没入させてくれます。

申し訳ありません、最初から鼻息が荒くて。今回は『警視庁監察ファイル ブラックリスト』の前作の『密告はうたう』を読了いたしました。続編を読んでいますので、勿論、既視感はあるのですが、エピソード1を読んでいると言えば良いのでしょうか。エピソード2へ繋がる要素を織り込みながら、主人公の佐良が人事一課へ所属することとなった発端及び葛藤が丁寧に描かれています。『警視庁監察ファイル ブラックリスト』では、佐良はその辺りの葛藤をある程度、消化した後ですので、パートナーである皆口彩子との関係性が濃密に描かれています。

ちなみに、警視庁警務部人事一課は「福利厚生や報償、配属など人事に関する職務」を所管する一方、警察機関特有の機能を持っており、それが「監察業務」であり、主人公の佐良はその監察係の主任を担っています。その役割は「四万人を超える警視庁職員の不正を突き止める役割」でなかなかシビアな業務を思わせます。

物語の中で幾度となく出てくる「行確(こうかく)」とは行動確認を指しており、警察官が警察官を捜査する際の最も基本となる業務で、相手は警察官、つまり人の行動をつぶさに観察することに長けた人間ですから、その人間を更に気づかれないように監察することはかなり至難の業と言えます。物語の冒頭文で早くも登場する監察係長の須賀はその最たるものと言えるキャラクターで佐良も何度も舌を巻く場面が描かれています。この佐良と須賀の対比も佐良というキャラクターを形作る上では、なくてはならない要素となっています。

 もう一つ。高校からの同級生である弁護士の虎島との関係性も佐良というキャラクターを語る上では重要な要素でして、その中でも「相手を知り、理解することと、根掘り葉掘り尋ねることは違う。」という言葉が私の中で深く響きました。(更に響く言葉は出てくるのですが、物語の核心に近い言葉ですので、控えさせていただきます。)人は往々にして言葉で表現しようとし、しかしながらその言葉の意味すら出し手の意図を明確に受け取ることは難しい。それをこの言葉は、全てを言葉で表現する必要もなく、ただそこにいるだけの意味の深さを教えてくれます。伊兼氏の言葉は平易で分かりやすいのですが、使用する場面で物凄く深く感じさせてくれます。

 また、続編が出ることを強く望みます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

伊兼源太郎(2017)『密告はうたう』.実業之日本社


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