いやぁ、没入しました。ひとつの物語が走りつつ、主人公の中でもうひとつの物語が走っている、そんな感じでしょうか。ひとつは現実で、もうひとつは過去からのしがらみというか妄想。ですが、この二つがシンクロしていき、物語が加速していきます。

過去があるから今の自分が存在しているのは確かなのですが、誰しもが良い過去(記憶)だけではなく、忘れてしまいたい過去があるはずで、主人公・太一もずっとその過去に囚われて生きています。この物語を読んで思い浮かんだワードが「克己」。己に克つ。そんなに強い人間ばかりではないですが、少なくとも今の自分を本当に「今」に存在させるためには過去を克服するステップが必要なわけで、それが先延ばしになればなるほど、過去が大きくなってくることもままあります。太一は、待野、待野の孫である理穂子、酒井など周りの人間との関わりの中で過去の自分と向き合っていきます。特に待野の存在は大きかったのでしょう。いなくなった後も待野との対話を通して自分自身をより深く洞察していく原動力となっています。

自分一人で出来ることはたかがしれていますが、少なくとも周りの人の助けとなることは誰しもがどこかのタイミングで何かしらのアクションは起こせるはずですし、それは単に手を差し伸べるだけでなく、少し距離を置いて、その人自身が思考できる時間を持たせることも実は長い目で見ると有効だったりします。目につくとついつい手を出してしまいがちですが。

とまぁ、仕事の上でも、生き方の上でも、没入させてくれつつ、読後もじっくり、じんわりと考えさせてくれる物語です。

おススメです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

福田和代(2019)『カッコウの微笑み』.双葉社.


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